令和7年度SDS電子化補助金事業では、Jグランツを申請基盤に、jヘルパーやkintoneを組み合わせた運営により、申請・審査・進捗管理の効率化と業務負担の軽減を実現しました。事業設計時の課題からシステム選定の考え方、運用上の工夫、導入による業務改善のポイントまでを、SDS電子化補助金事務センター長の丸山太一様にお話をうかがいました。補助金事業の概要本補助金事業は、国の要請を受け、化学物質を扱う事業者間で行われるSDS(安全データシート)の授受を円滑に電子化することを目的としています。補助対象は、法令に基づきSDSの提供が必要な事業者であり、SDS電子化に必要なシステムの導入・利用に対して補助が行われます。審査の流れは、交付申請、審査、交付決定、システム導入後の実績報告(請求申請)、確定通知、振込支払いという、標準的な補助金運営のプロセスに沿って進められました。初年度事業であったため申請数は不確実でしたが、想定しうる最大数の申請があっても対応できる運営体制と業務フローを想定しておく必要がありました。事業運営設計時に想定していた課題事業開始時点では、制度運営もシステム面も、ほぼゼロから構築する必要がありました。補助金事業そのものの設計に加えて、申請受付、審査、通知、進捗管理、支払いまでをどのように滞りなく回していくかを検討する必要があります。スピード感とコストの制約一方で、4月1日に組織が発足してから夏には事業を開始する必要があり、限られた時間、予算でシステムを構築する必要がありました。業務負荷を軽減するための電子化特に大きな課題は、申請件数増加に伴う事務局の業務負荷でした。申請件数が増えた場合、紙ベースのやり取りでは確認や差し戻し対応が煩雑になり、処理ミスや対応遅延のリスクも高まります。そのため、当初から電子申請を原則とした運営が採用されました。今回の補助金自体が電子化を推進する事業であったことも、こうした設計を後押しする要因となっています。情報管理と進捗把握の重要性加えて、事務局運営では、単なる業務効率化だけでなく、情報を正確に管理し、状況を適切に把握できることも重要でした。申請情報を正確に管理できること審査や進捗の状況を関係者間で共有しやすいこと差し戻しや確認対応が発生しても、混乱なく追えること個人情報や口座情報を適切に扱えること補助金運営では、件数そのものだけでなく、状態の異なる案件を同時に扱う難しさがあります。そのため、業務全体を見渡しながら管理できる仕組みが必要でした。システム検討と選定の考え方電子申請の実現手段としては、Jグランツ活用、専用システム構築、既存システム活用など複数の選択肢が検討されました。その中で採用されたのが、デジタル庁が運営するJグランツです。最終的にJグランツを活用した背景には、主に以下の理由があります。新規開発に比べたコスト・納期の優位性GビズIDによるログインで確実な法人確認(不正防止)公的基盤としての信頼性低コスト短納期専用システムの新規開発は高コストかつ時間を要するため、初年度かつ短期間での立ち上げが求められる本事業では、既存システムの活用が現実的な選択となりました。GビズIDによる確実な法人確認もう1つは、Jグランツ自体の特性です。JグランツではGビズIDでログインするため、法人確認を確実に行うことができます。これは不正防止の観点でも有効でした。Jグランツとkintoneの連携このJグランツのデータを効率的に処理するために、Jグランツで受け付けた申請情報をjヘルパー経由でkintoneに連携し、業務管理を行う構成が採用されました。背景には、コスト面、柔軟性、そして審査業務をkintone上で完結できる運用効率の高さがありました。情報管理やセキュリティ各種システムの導入にあたっては、「初めての事業で、本当にうまく回るのか」という不安もありました。加えて、口座情報などの機微な情報を扱う以上、情報管理やセキュリティも重要な論点でした。これらの点について、情報セキュリティ体制の整備や脆弱性診断の実施などを通じて、運用面・システム面の両方から対策を進めたことで、安心して導入できる体制を整えていきました。システムの活用方法(申請〜審査・管理)今回の運営では、Jグランツを申請の入口とし、その後の実務管理をjヘルパーとkintoneで行いました。リアルタイムの進捗管理と情報共有特に活用されたのが、進捗管理と情報共有です。kintone上で申請ごとのステータスが整理され、「今どの案件がどの段階にあるのか」「どこまで処理が終わっているのか」を一目で確認できる状態が整えられました。これにより、職員間の認識ずれが起きにくくなり、対応漏れや案件の見落とし防止にもつながりました。データ連携と処理の自動化また、こうした進捗管理を支える仕組みとして、jヘルパーとkintoneを組み合わせたデータ連携と自動化が活用されました。具体的には、Jグランツで受け付けた申請データをjヘルパー経由でkintoneに取り込むほか、申請書や請求書などのExcelデータについても、内容を自動でkintoneに反映しています。これにより、申請受付から審査、進捗管理までの一連の業務がデータとして一元的に扱われるようになりました。さらに、審査項目の判定や補助額の算出なども一部自動化されており、手作業の削減と処理の標準化が図られました。条件に応じた通知・連絡必要な相手に必要な情報だけを送るメール運用も、実務上の助けとなりました。対象や条件を絞って連絡できる仕組みがあったことで、ヒューマンエラーの抑制や、対応漏れの防止に役立ちました。帳票の自動作成交付決定通知書などの帳票は、jヘルパーの機能を活用して、kintone内のデータをもとに自動生成しました。文書番号や事業者名の手入力によるミスを防ぎ、jヘルパーで機械的に生成することで、正確性が担保され、担当者は最終確認に注力できる形になりました。確認作業の負担も軽減され、大きな助けとなりました。システム導入による効果・変化jヘルパーの導入により、申請・審査・進捗管理の一元化が進み、複数案件が並行しても混乱なく運営できる体制が整いました。その結果、期日内にすべての処理を終えることができました。業務効率と正確性の向上特に効果として大きかったのは、案件の状況を一元的に把握できたことです。補助金運営では、申請受付中、審査中、差し戻し対応中、交付決定済み、請求確認中など、複数の状態の案件が同時に動きます。これを個別のメールや紙、Excelだけで追いかけるのは大きな負担になります。案件ごとの進捗を一元管理できたことで、複数案件を同時に扱っても対応漏れや遅延を防ぎやすくなりました。特に申請が集中する時期でも、安定した運営につながりました。ヒューマンエラーの抑制帳票の自動作成や条件付きメール送信により、単純作業や転記作業にかかる負担が減り、手作業による人的ミスの予防にもつながりました。重要情報の誤記リスクを低減しました。事業者名や文書番号の誤記は、補助金業務では大きな問題になり得ます。そうした箇所をシステムで処理し、担当者が確認に集中できる点は、大きな利点といえます。運用を通じて見えた改善ポイント運用を通じて、添付書類の不備が発生しやすい箇所も明確になり、次回以降の改善につながる知見が得られました。たとえば請求申請時には、システム導入業者から申請事業者へ発行された請求書や領収書の添付漏れが一定数発生しました。背景には、制度や様式のわかりにくさも影響していると考えられますが、こうした点についても、システム側の設計によって防げる余地があります。今後は、添付書類の区分の細分化や必須設定の強化、入力形式の制御、データ変換・出力の自動化などを進めることで、防止につながると考えられます。審査そのものは最終的に人の判断が必要ですが、その前後の管理や事務処理をシステムで支えることで、全体の業務品質を維持しやすくなりました。運用の工夫マニュアル整備と操作説明当初はシステム運用への不安もありましたが、詳細なマニュアル提供や説明会を通じて、職員はすぐに操作に慣れていきました。それに加えて、問題が発生した時に、すぐに必要なサポートが適切に提供されたことも大きかったといえます。運用しながらの改善また、運用開始後もシステムを固定化せず、実際の業務を見ながら改善を加えていきました。審査後に次の担当者へメール通知が届く仕組みを追加したり、進捗ステータスの設計を見直したりすることで、「処理したつもりで止まってしまう」状態を防ぐ工夫が重ねられました。新規の事業であったため、最初から完全な運用ルールが整っていたわけではありません。だからこそ、実務の中で課題を見つけ、漏れが起きないよう改善を重ねながら運営していくことが重要でした。今後の展望補助金業務には、審査、差し戻し、通知、請求確認、支払いといった多くの工程があります。これらを紙や属人的な運用に頼らず適切にシステム化することで、大規模な補助金でなくても、電子申請を前提とした運営で効率性と正確性を両立できることが、今回の取り組みを通じて確認されました。今後は、Jグランツとjヘルパーのような既存の仕組みを組み合わせることで、現実的かつ効率的な補助金運営を構築しやすくなることが期待されます。補助金運営において重要なのは、システム導入そのものではなく、「制度・業務・運用を含めてどう設計するか」です。今回の取り組みでは、情報の管理、脆弱性対策、業務の効率化を一連の流れの中で進めることができました。同様の課題を抱える運営者にとって、参考となれば幸いです。